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August 08, 2006

プール事故からの教訓

埼玉県ふじみ野市でのプール吸水口の事故については、施設管理を担う上で、安全意識に乏しかったことは言うまでもありませんが、このほど文部科学省の緊急調査で、吸水口のフタがきちんと固定されていないプールが38都道府県で305か所あると発表されました。今後、プール施設について厳しい安全管理体制が要求されることは必然でしょう。

しかし、この事故の教訓は施設管理の強化のみで終わってはならないと感じています。特に建築関連のものづくりに直結している設計者、施工者、専門業者は他人事と思わず、再発防止について深く考える必要があるでしょう。

というのも真の原因は、『吸水口の蓋を針金で留めざる得なかったこと』に起因しているのではないでしょうか?

今回の事故は施設管理者に多大な責任があり、直接的な民事訴訟の対象者にならないと思いますが、施設の設計者や施工者、専門業者も「プロ」として自覚しておくべきです。危険を及ぼす可能性の高いプール吸水口の蓋の固定仕様に甘さがあるということを…。

全国に吸水口の蓋の固定に何かしらの不備がある件数の多さがそれを物語っていますが、今回のふじみ野市の事故では、蓋のボルト固定は全体の4分の1しかされていなかったといいます。事故の起きた施設では、3つの吸水口があり6つのステンレス製の格子蓋を4隅でボルト固定する方法で留める仕様であったといいますが、「ネジ穴の位置がずれ合うボルトがない」として、合計24箇所の穴のうちボルト固定はわずかに6箇所だけで、残りは針金を使用していたそうです。(8/4日経新聞より)

この状況から推測すると、そもそも論としてプール施設の吸水口の蓋の固定方法に問題があったと言わざるを得ません。

プールの水は承知のとおり、消毒されて管理されていますからかなり塩基性の強い水となっています。その中に固定する金属性の蓋ですから、当然蓋が簡単に腐食してはならない仕様としなけれななりません。蓋自身はステンレス製でも固定のためのボルトやそれを受ける穴側の金物や、受け金物はそのような仕様であったのか大変気になります。

目を凝らしてTV映像を見てもよくわかりませんが、「ネジ穴の位置がずれ合うボルトがない」理由として、蓋の固定ディテールは下記のようであったと推測されます。

1)固定金物のいずれかが鉄製であり、プール水により腐食が進行していた。
  ※腐食が進行すると、酸化した「錆」により金物は膨張する為、ネジ山は合わなくなります。
  ※また、メッキされた製品でも母材が鉄製であれば、プール水の中では当然錆びやすいです。
2)プールの躯体側のアンカー穴が躯体構築時に打ち込みされず、
  後打ちアンカーによる施工により蓋自身が一品生産された為、
  蓋それぞれの固定穴の位置が異なり、管理時に蓋がシャッフルされ
  合わなくなってしまった。
3)物理的に蓋が外れやすいか固定しずらい仕様であり、メンテナンスの度にネジ山が潰れてしまった。

また、万が一蓋を固定するボルトが外れてしまったとしても、蓋自身がはずれないディテールへの配慮が本来必要であったのかもしれません。今後、ふじみ野市の流水プールのような仕様であれば、そういった配慮は、設計者に当然必要でしょう。そして形状や材質、仕様において細かい部分にまで配慮したディテールの標準化の整備が喫緊に必要でしょう。

一方、施工者や専門業者においても、ものづくりの経験が豊富な立場から、安全に安心して使える仕様やメンテナンス製を考慮した仕様の提案をきちんとすることが大切であり、それが出来るか否かが技術力の差となり、今後企業としての社会的責任を問われる状況となるでしょう。

もちろん、いくら配慮がされた安全施設でも完璧な安全施設はありません。点検とメンテナンスが経年により必要であるからです。エレベーターの事故もそうでしたが、使い慣れた施設で事故が発生するのは、点検やメンテナンス不足がその事故に直結していることがほとんどです。

そういった視線から、現在のプール施設の点検を急ぎ、類似事故の再発を防ぐことは、たいへん重要です。施設の安全管理が事故防止の最後の砦となるので、慎重な点検が全国で展開されていることを強く思います。

しかし、さらに「安全管理」とは裏腹に、厄介なことに必ず潜むのが「気づき」の遅れや不足などの点検者の「力量不足」やそれと監視「ヒューマンエラー」です。心配しても霧がなくなってしまうかもしれませんが、軽視できない時代であることを痛感します。「力量不足」や「ヒューマンエラー」を補うためには、施設点検者や監視する者達の個々人に「人間力」を携えていただくしかありませんし、それに頼わざるを得ません。

こどもは無邪気に予想もつかない行動に出ることがあります。特に自然と戯れる機会と経験の少ない今どきのこどもたちにとって何が危険で何が安全なのかは、無邪気さ故にわからないでしょう。

だからこそ、この痛ましい事故を教訓に、設計者、施工者、専門業者、施設管理者や点検者、監視員それに親たちも「気づき」から行動の起こせる「人間力」を高めることが大切なのではないでしょうか。
安全で安心して使用できる施設や愛される建築物は、そのほとんどが、ものづくりの過程からメンテナンスに至るまで当事者の「人間力」で支えられていると思います。

亡くなった小さな女の子の冥福をお祈り致します。

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